大手塾の立地戦略 ~塾が多い区少ない区~

データで見る中学受験

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学習塾は大手から個人経営まで様々あり、例えば電車に乗っているときにも多くの中吊り広告、駅ナカ広告を目にする機会があるでしょう。また、各塾は駅の近隣に立地することが多いため、夜の送迎時には、親が塾の前で出待ちしているシーンに出会うこともよくあるのではないでしょうか。そのようなシーンに多く出会うと、塾が多い駅と少ない駅、ひいては塾の立地に地域性があることに気づきます。このページでは、学習塾の一覧マップを作製したときのデータを使用しながら、大手塾(SAPIX、日能研、早稲田アカデミー)の特色について、立地という視点でまとめてみました。

個別の学習塾の立地については下記ページも参考にしてください。

首都圏(一都三県)の塾数

大手塾の数を都・県ごとに合計した結果が下記のグラフです。

当然ながら人口の最も多い東京が一番塾が多いです。次いで神奈川、埼玉、千葉の順になります。単純に人が多いから塾も多いだけでは?と思い、人口100万人当たりの塾数も計算したところ、順位は全く変わりませんでした。つまり塾の数は単純に人口と比例しているだけではなく、人口当たりの密度でも東京に塾が集中していることが分かります。人口当たり塾密度で見ると東京は埼玉・千葉の3倍以上と、明らかに塾数が偏在している結果となりました。それだけ東京都内での塾需要が大きいということになるでしょう。

次に各塾ごとの立地を見てみましょう。数としては早稲田アカデミーが最も多く、SAPIXが最も少ない結果となっています。早稲田アカデミーの校舎数はSAPIXの約3倍です。この数字を見ると早稲田アカデミーの方が少人数多校舎なのかなと思いがちですが、運営会社の決算資料などを見てみると小学生の生徒数では早稲田アカデミーが約2.2万人、SAPIXが約0.67万人と、おおむね校舎数あたりの生徒数は同等になることが分かります。もちろん校舎ごとの人数の多少はあるので塾ごとに大規模校舎も小規模教室もありますが、極端に校舎ごとの生徒数が異なるというわけではなさそうです。日能研は全国展開していることと、生徒数の開示データが無かったので、6年生の受験者数から生徒数をSAPIXの3倍と推計しましたが、他の2つの塾と校舎ごとの生徒数に違いはあまりありませんでした。

都内の塾の多い区、少ない区

それでは都内の区ごとの塾数を見ていきましょう、まずは大手塾の多い区トップスリーから。

中央区と練馬区、港区は同数のためトップスリーと言いながらトップファイブとなっています。正直なところ、この結果には驚きました。というのも、中学受験は費用がかかるので、その区の平均年収と塾数は相関があると思っていたためです。しかし、平均年収ランキングトップである港区がかろうじてトップスリーに入っているだけで、2位3位の千代田区、渋谷区の塾数は区ごとの平均以下となりました。塾の立地には地価の高さやその地域の受験する子供の数、通学しやすさに関わる交通網という要素があるため一概には言えませんが、塾~自宅間の通塾距離に平均年収という要素はあまり関係なさそうです。北区は埼玉との境界に近いため、埼玉県側からの生徒を呼び込めるという要因から2位になったと思われます。世田谷区は人口が23区で1位であり子供が多いこと、都心に比べれば地価が(まだ)低い事、交通の便が良く他の区から通塾しやすい事、などの要素によって1位になったと推測されます。

世田谷区の塾数を詳しく見てみましょう。塾の数では早稲田アカデミー、日能研、SAPIXの順となっています。世田谷区のSAPIXの特徴は自由が丘校のように、一つの場所に複数校舎がある配置となっており、他の塾よりも大規模少校舎の傾向があると言えます。

次に23区で塾数の少ない区を見てみましょう。都内でも東側の区が並んでいることが見て取れます。特にSAPIXは荒川区、板橋区、江戸川区、葛飾区、台東区、墨田区、足立区に校舎が無く、東京北部~東部にまたがる地域をカバーしきれていない事が分かりました。詳細は別の記事を予定しているのですが、東京都の東側には私立中学がなぜか少ないゾーンがあり、これらの区のいくつかが該当します。つまり、自宅の近くに私立中学が無い→中学受験でなく公立中学に進学する生徒が多い→塾の需要が低い→塾数少ない、という関係が出来ているのではないかと推測しています。

最後に、塾数が偏っている区についてまとめていきます。まず江戸川区には、日能研、SAPIXが無く、早稲田アカデミーだけ3校舎もあります。そして台東区にはSAPIXと早稲田アカデミーが無く、日能研が1校舎あります。早稲田アカデミーは校舎数が多いのですが、なぜか23区のなかで台東区だけ校舎が無い区となっています。日能研は江戸川区、文京区に校舎が無いものの、それぞれ隣接する区に校舎が複数あるためそちらでカバーしているのでしょう。台東区は23区で最も面積が小さいため、隣接する区の校舎で生徒をカバーできるのかもしれませんが、面積が似ている荒川区、中央区などと比較してもここまで塾数が少ないのは理由が分かりませんでした。もしかすると地元密着の個人塾が多いのかもしれません。本件は継続調査を予定しています。

まとめ

この記事では首都圏及び23区の塾数について比較しました、まとめは下記の通りです。

  • 東京都は隣接3県と比べても塾の数が多く、人口当たりの密度が高い
  • 校舎数と生徒数の比をとると大手塾で極端な差は無い(大人数少校舎、少人数多校舎という傾向の違いは無い)
  • 塾の立地はその区の平均年収とはあまり関係が無い、他の要因で決まっている
  • SAPIXの校舎は都心~東京都西側をカバーしているのに対し、日能研と早稲田アカデミーはほぼ都内全域をほぼカバーしている
  • 東京東部は塾数がそもそも少ない、特にSAPIXは北部~東部地域にほぼ校舎が無いゾーンがある
  • 台東区はなぜか日能研の1校舎のみ、個人学習塾が多いのかも?

区ごとに見ると、SAPIXは校舎の立地に偏りがあり、日能研と早稲田アカデミーはSAPIXほど大きな差が無い事が分かりました。あくまで2023年11月時点の結果ですので、今後校舎数の少ない東京東部地域へ新校舎を設置する動きが各塾ともあるかもしれませんね。

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